【第2回:マンタの生態って?】
沖縄美ら海水族館訪問レポート第2回は、バックヤード見学からご紹介します。
まず、大水槽を下から見上げることができる小部屋(観察窓)にきました。目の前にマンタが現れて思わず息をのみますが、胸鰭を上下にゆっくりと動かして泳ぐ姿はまさに威風堂々としており、厳かな雰囲気を持っています。この小部屋は生物たちを間近に見ることができるので、研究員や飼育員の方たちが出産の様子などを観察するスペースになっています。続いて上から水槽を見下ろすスペースに来ました。飼育員の方たちはここから水槽内の生物に餌やりをします。
さて、今回の訪問で初めて知ったマンタの興味深い生態をいくつかご紹介しましょう。
訪れた6月はちょうど交尾の時期だったので、いわゆる「マンタトレイン」を目にすることができました。どういうものかというと、メスのマンタのすぐ後ろをオスが続いて泳ぎ、メスの交尾の準備が整うのを待ちます。メスは準備が整うとフェロモンと呼ばれる特有の化学物質を分泌し、オスを誘引して交尾に至ると考えられています。魚類でありながら交尾し体内受精をするのは、非常に興味深いですね。マンタは社会性があるので、コミュニケーションを取っているそうです。例えばオスは気に入ったメスへの求愛行動として、頭のひれでメスに触れるなど様々なアクションを繰り返すとのこと、何だか人間のようで親近感が湧きます。
マンタは胎生の動物、つまり母体の胎内で子育てをして、出産します。マンタの赤ちゃんは大きなひれを折りたたんだまま子宮内で成長します。母マンタの子宮の中は「子宮ミルク」という特殊な液体で満たされ、そこから栄養を直接摂取します。そのため赤ちゃんマンタは子宮内では一切排泄物を出さずに、約1年近く我慢して、胎外に生まれ出た後すぐに排泄をするそうです。中々ユニークな生態ですね。しかも母マンタは子供の世話は一切しないので、赤ちゃんマンタは独力で生きていかなくてはならず、自らプランクトンや微生物を食べ始めます。
マンタの主食は海中に浮遊する微細な動物プランクトンや小魚、魚卵などです。大きな口を開けたままで水中を泳ぎ回り、海水ごと吸い込み、飲み込んだ海水を鰓から排出して大量のプランクトンを濾すようにして摂取します。水族館では1日に3~4回餌やりのタイミングがあります。マンタは自分が餌を食べる場所を記憶していて、自らその場所に来ます。そして並んで順番に飼育員が投げ入れた餌を海水ごと飲み込んでいますが、なんと、自分の食べる量を食べ終わると列から離れていきます。知能が高い生物と聞きますが、その賢さに驚きました。
他のサメやエイ類と比べて、マンタは体に対して脳の比重が大きい動物です。そのため、物事を学んだり、他の個体とお互いコミュニケ―ションを取ることができます。遊び好きで好奇心が強く、自己を認識していると考えられています。餌やりの時も、飼育員が餌を用意して道具で合図を送るとグループに分かれて餌をもらうため列になって円を描くように泳ぐのです。そして、まるで私たちが撮影をしていることに気づいているのか、近くに寄ってきて胸びれを水面に出して挨拶するかのように振ってくれたのです。
マンタはきわめて大型の海洋生物で、大量の餌生物を捕食します。マンタは海を回遊したり、鉛直移動することが知られていますが、これには海の栄養素を循環させる大切な役割があると聞き、その存在が海にとっていかに大切かを改めて知ることができました。しかし、彼らは絶滅危惧種に指定され、その生存が脅かされています。彼らの生存のための課題はいくつかありますが、海洋汚染の問題はとりわけ重要です。サメやクジラ、マンタのような巨大な生物は一度に大量の海水を飲み込むので、直接消化管に様々なものが入ります。サメやイルカの胃からプラスチックのマイクロチップやビニル袋などが見つかり、水族館ではそのゴミの展示も行っています。
「小さなプラスチック片1枚で大きなジンベエザメでも死んでしまうことがあるのです。」これは、私たちが目の前の現実を認識して行動を変えなくてはならないと意識させる重要な展示物です。
第3回では、今年開館20周年を迎える沖縄美ら海水族館についてのお話です。
第1回目はこちらからご覧いただけます。 <マンタをたずねて1600km~国営沖縄記念公園(海洋博公園):沖縄美ら海水族館を訪問> – 第1回