カール F. ブヘラとマンタトラストとの絆
海洋生物学者ガイ・スティーブンスによって2011年に設立されたNPO団体「マンタトラスト」は調査、研究、教育等の活動を通じて、マンタとその生息地の保護活動を20か国以上で取り組んでいます。そして、カール F. ブヘラは2013年から長期的なパートナーシップを結び、彼らの活動の支援を続けています。例えばモルディブの沖合で実施されたマンタの大規模な調査活動とそこで得られた4000匹以上のデータを収集したデータベースの開発支援や、特定の個体に埋め込んだGPS追跡チップによる行動範囲の調査、観光客や観光業者対象に水中でマンタと過ごす際の責任ある行動を伝えるショートフィルム製作支援など、その内容は調査、教育等多岐にわたります。これまで取り組んだ活動のいくつかをご紹介いたします。
メキシコ太平洋沿岸:重要な回遊回廊の特定
2015年メキシコ沖
メキシコの太平洋沿岸に生息するマンタの基本的生態を調査。衛星タグを用いて、この地域におけるマンタの詳細な動きから大規模な行動までを調査し、海洋学的条件の変化に伴って生じる生息地利用のホットスポットやパターンを特定しました。また、メキシコ本土のバンデラス湾と沖合のレビジャヒヘド諸島の間に本種の回遊回廊が存在するかどうかを確認し、メキシコ海域における混獲漁業から本種を守るために重要な生息地を特定しました。マンタは沖合の島々と本土を往来していないことがわかり、その代わりに両地域のマンタは同じ季節に南北に移動、遠洋域の深海でかなり長い時間を過ごして、潜水深度も極めて深いことがデータより明らかになったのです。
映画「HOW TO SWIM WITH MANTAS(マンタと一緒に泳ぐには)」
2016年モルディブにて撮影
シュノーケリング中やダイビング中のマンタとの接し方を視聴者に伝えるための短編映画を「マンタウォッチングの行動規範」と「交流ガイドライン」に沿って制作しました。この短編映画は、マンタウォッチングツアー実施前に観光業者やリゾート施設による一般参加者のための説明会で上映され、現在世界中で利用されています。この映画の目的は、観光活動によるマンタへの悪影響や妨害を未然に防ぎ、人間とマンタの良好な交流を促進することにあります。また、この配給を支援するためのミニウェブサイトも作成しました。観光業者の皆さんはこのウェブサイトに登録することで、マンタウォッチングの行動規範メディアキットに無料でアクセス可能です。
健康は食にあり/巨大生物の餌場を探究
2017年モルディブ
モルディブのリーフマンタ(Manta alfredi)の食生活を先進的な方法(安定同位体分析および脂肪酸分析)で解明。大量の写真IDや行動データを用い、食用となるプランクトンの種類や密度の違いにリーフマンタの行動がどう適応しているかについて立証していきました。この調査結果で得られたマンタの食習性に関する重要な情報が、種の適応性を判断する上でも役立ち、保護活動を推進する上で極めて重要な要素となります。
モルディブ海洋教育プログラム
2018年モルディブ
モルディブ・マンタ保護プログラムの海洋教育プログラム(MEP)の拡大、そして海洋保護や海について特にモルディブの女子たちの関わりを深めるにはどう取り組んだらよいか、その方法について学ぶためのプログラムを実施。2017年、MEPはバア環礁において4カ月間の学習コースを実施し、モルディブの若者に海洋環境への理解と評価を深めてもらうとともに、実際に保護活動に関わる機会を提供しました。この時の経験をもとに、新たな資金援助により新しい学校で学習コースを実施し、環境問題を軽減して持続可能な開発を支援できるようなエコロジー意識の高い人材を育成する上で、MEPはどう成果があるかを評価するために、事前事後の調査も行います。保護活動では、地域におけるプラスチック使用量の削減、廃棄物管理の改善、海岸清掃の実施に焦点を当てます。
影を求めてカリブ海のブラックマンタの謎に迫る
2019年メキシコ
メキシコ・カリブ海の生物圏保護区とその周辺地域の航空調査を連続して実施。現在、生物圏ジンベエザメ保護区域内では、ジンベエザメのシーズン中にマンタが餌を食べる様子が観察されており、マンタの存在が予測されます。マンタトラストの記録によるとマンタはこの地域の周辺地域を餌場としており、監視とサンプリングが必要だと考えました。そこで9月に初期の航空調査を3回行いました(2020年はCOVID-19パンデミックの影響でプロジェクトは休止)。これらの調査ではマンタは目撃されませんでしたが、マンタ・カリブ海プロジェクトは、ジンベエザメなどの他の動物相の存在や、生物圏保護区内の商業船舶や漁業活動に関する貴重なデータを記録しました。この情報は、1年のうち何月にどの場所でどの様な商業活動が行われているかを認識し、この地域におけるマンタやイトマキエイに対する潜在的脅威を特定する上で非常に重要です。マンタ・カリブ海プロジェクトは、カール F. ブヘラからの残りの資金を充てて、2021年5月から6月にかけてさらなる航空調査を実施する予定です。
絶好の機会
2020年モルディブ
コロナウィルス禍で観光や警備制御が行われなかった数か月間、状況はどのように変化したのか?マンタは繁殖したのか?あるいは違法な漁業活動の痕跡が見つかるのか?モルディブ・マンタ保護プログラム(MMCP)では、調査船を入手し、8月15日から11月30日まで調査活動を再開しました。この間、東部バア環礁においてマンタを探すため、931回の調査を実施しました。MMCPの調査は、オブザーバー(830回)もしくは遠隔水中ビデオシステム(101回)で行われました。調査は、5カ所あるマンタの主な餌場のひとつであるハニファル湾で、またその他の集合場としてバア環礁の東境界線周辺の12カ所で行いました。MMCPチームは調査現場に戻ったことで、モルディブで5000匹目のリーフマンタを確認するという、マンタ調査における重要な節目に達することができました。MMCPの研究者たちは、101台の遠隔水中ビデオシステムを異なる7カ所の現場に配備、また2台の長期水中コマ撮りカメラを設置して「アイズ・オン・ザリーフ」プロジェクトに貢献。さらに、ケンブリッジ大学で進行中の博士課程プロジェクトのためにマンタの計測値と超音波スキャンを提供、海洋科学の教育者を目指す地元のインターンからのトレーニングや学習を続けています。
モルディブに浮かぶ洋上調査基地
2021年モルディブ
現在、モルディブの調査拠点のほとんどが一カ所に集中しており、調査チームが1日に移動できる範囲や調査範囲はごく限られています。新しい領域を調査するために遠方へ出向く機会が中々ありませんが、それでも機会に恵まれた時には、モルディブのマンタの個体群について知るべきことが多いことに驚かされます。2021年はカール F. ブヘラの資金援助により、「洋上調査基地」となる専用船をチャーターすることで、新たな発見の機会が得られます。これによりマンタの専門家はモルディブの遠隔地域を訪れマンタの行動をリアルタイムで観察、記録できるうえ、マンタの個体群の新たな発見も可能となるのです。この船で新たな領域に挑み、未発見のマンタの餌場やクリーニングステーションを発見することを目的に地域を探索し、回遊経路の関連性を特定するなど、モルディブのマンタの個体群についてさらなる洞察を深める機会となるでしょう。